ガッタンゴットン。ガッタンゴットン。
高い天井がすこし遅れて音を返す。
父から受け継いだこの会社は、まいにち大きな印刷機械たちと働く、箱庭だった。
私は「それ」が吐き出した一枚の伝票を見て、思い出す。
「今使っている伝票を使いやすくしてくれないか」
受話器の声に、ニコニコした営業マンが答えた。
「伝票の写真はあるけど実物はなくて・・・」
別の受話器の声へ、スラリとした経理の女性が答えた。
機械と人の音のすき間をまっすぐと走るいつもの着信音が、次は私の番だと告げる。
「いつもありがとうございます!小倉印刷です!」
得意じゃないことを得意と言わないことが誠実であると、父に教えてもらったことがある。
私たちは、いつも身近で誠実、そんな印刷屋でいたいと思う。
モノを売るのではなく、つかう人に笑顔を届けたいし、印刷物で感動を感じてほしいと切に願う。
それは、小さい頃から見つづけた姿勢なのかもしれない。
ガッタンゴットン。ガッタンゴットン。
私の指示で機械がうごく。
父から受け継いだこの会社は、まいにち大きな印刷機械たちと働く、楽園だった。
私は「それ」が吐き出した一枚の伝票を見て、うれしくなった。